今ではもうすっかり過去のこととなってしまった西暦2000年問題ですが、その危険日の1つ2000年2月29日にシンガポールに赴任してはや1年半がたちました。400年に一度の特殊な日(注)のフライトだったためいつまでも赴任日を覚えていられるわけですが、当日は春というにはまだ風が冷たく寒い日で、手袋とマフラーをして家を出たのを覚えています。日本で暮らしていると春夏秋冬と四季がはっきりしていることもあり、何かの出来事が、その日付までは覚えていなくても、あれは寒い頃だったなとか、桜の咲き始めた頃だったななどと、感覚的にいつ頃だったかと思い出されます。
シンガポールは北緯1度、赤道までおよそ100kmのところにある島国ですので、四季の変化をあまり感じることができません。確かに、12月から3月にかけての雨季には曇りがちで少し涼しい日が多いですし、5月、6月頃は日差しも強く非常に暑い日が多くなります。シンガポールにも暑い、少し暑い、とても暑いという季節があるというような冗談を聞いたこともありますが、日本に比べた場合、やはり季節の違いがあるとは言えません。
赴任後、一度静岡に帰った時も、昨年9月初旬の残暑がとても厳しい時期だったので、シンガポールより日本の方が暑いと感じたくらいです。ですから、赴任してから今までの間ずっと夏の状態が続いたままでいることになり、徐々に「季節感」というものが自分の中で薄らいでいくような気がしています。
実際、清水港ポートセールスの皆さんをお迎えしたのはいつ頃だったか、先輩のご家族と一緒に食事をしたのはいつ頃だったかなどの記憶が、8月なのか11月なのか、よく思い出せないことがあります。年のせいもあるかもしれませんが、それはさておき、これが日本だったら、バスから見た街路樹の葉が黄色くなっていたので秋だったとか、寄せ鍋を囲んで熱燗を飲んだから冬だったというような、季節やその風物とともに思い出すことができますが、1年中夏の国で暮らしているとそういう思い出の呼び起こし方ができません。
また、ここでは日の出、日没の時刻もあまり差がなく、朝は6時半過ぎにようやく明るくなり始め、夜は7時過ぎに暮れ始めます。1年間ほとんど同じリズムなので、「日が伸びたね」などという会話や、秋の日は釣瓶落しなどの表現にはお目にかかれません。こちらで自動車運転免許の試験のために交通法規の勉強をした折、午後7時から午前7時までの間はライトをつけて運転しなければならないという規則があるのには少々驚きました。季節によって日の出日の入りの時刻に何時間も差がある国から見ればまったくナンセンスな規則も、こちらではこれが普通の感覚なので、季節感が薄くなる理由の一つに思えます。
シンガポールの児童、生徒が通う学校は6月が休みになりますが、夏休みとは呼ばず単にschool
holidayまたはmid-year holiday(年半ばの休み)と呼ばれます。日本人学校では、日本にあわせて8月、年末年始、3月下旬から4月上旬の3つの長い休みがあり、子供を持つ家庭では日本と同じように、夏休み、春休み などと呼んでいます。冬休みという言い方はさすがにしっくりきませんし、シンガポール人からすれば、夏休みという言い方さえもおかしなものに聞こえるものと思います。
街で見る人々の服装も、Tシャツに短パン、タンクトップにジーンズがほとんど。オフィス街の男性は、建物の中の冷房が強いせいでしょうか、1年中長袖ワイシャツにネクタイ姿です。食べ物では、日本と同じように野菜はほとんど1年中同じものが店頭に並びます。果物は種類も多く、4月から6月頃にかけて出回るドリアンなどそれなりに季節を感じさせてくれるものも少しはあります。ただし、レストランの食後のデザートに出てくるのは決まってスイカとメロンです。
肌で感じる空気の温かさ冷たさ、また旬の食べ物や草花など、四季の移ろいを感じながら暮らせることは大変ありがたいことなのだと今更ながら感じる一方で、多民族国家のシンガポールならではの楽しみも味わっています。
国民の多くは中国系ですが、マレー系、インド系の国民もいて、それぞれの文化や伝統、宗教に根ざした行事やお祭りがいろいろ行われ、また食べ物も本物の味を堪能することができます。チャイニーズ・ニューイヤーとよばれる旧暦の正月や、中秋の名月の頃のランタン(提灯・灯篭)フェスティバル、先祖の霊を慰めるハングリー・ゴースト(日本のお盆に似たお祭り)など、中国系国民の風習には日本を思い出させるものもあり、似ているところや違いなどあれこれ思いをめぐらせることができます。イスラム教の断食(ラマダン)明けのお祭りやヒンズー教の光の祭りなども、通りがライトアップされエキゾチックな飾り付けがされるなど、普段と変わった町の顔が楽しめます。今では、あれは旧正月の派手な飾り付けがあった頃だったなどと、気候の移り変りという季節感の代わりに行事やお祭りで時期を感ずるようになりつつあり、すっかりシンガポールになじんだ気もします。
皆さんもシンガポールを訪れる機会がありましたら、異国文化のご案内をしますので、遠慮なく声をかけてください。
(注)4年に一度の閏年も1900など100で割り切れるときは例外として閏年でなくなりますが、2000のように400で割り切れる年は例外の例外で閏年になります。

シンガポールのシンボルマーライオンをバックに。
一年中こんな感じです。